ダメなおじさんの、ダメな人生 その20

新居に引っ越してから、彼女があまり笑わなくなりました。

ネガティブな発言が多くなり、常に何か考え事をしているようでした。

彼女は言うには『マタニティーブルー』と言うらしく、心が安定しないのだ、と言うことでした。

出産予定日が近づくにつれ、それはひどくなっていきました。

舞い上がっていた僕は、次第にその高度が落ちてきて、ついに地に足がつきました。それくらい、彼女はひどい状態でした。

僕はどうして良いのか分からず、無事に出産が終わればまた落ち着くのではないか、と考え、早く生まれることを願っていました。

 

やがて陣痛がきて、この世に新しい命が誕生しました。

 

翌日から毎日病院へ行きましたが、彼女の状態は変わりませんでした。

 

数日後、病院から連絡があり、『あなたの奥さんはかなりおかしい』と言われました。

聞けば、病院のフタッフに、離婚、子供がいらない、などと言っているようでした。

 

僕はそのことを彼女に聞きました。

彼女の断片的な答えをまとめると、それは僕と同じ境遇でした。

 

彼女も以前から、生活環境を変えたくて、「ここ」から脱出したいと思っていました。しかし、どうすることもできない日々。努力しても、大人になっても、それは変わりませんでした。

では結婚してはどうか?と恋愛に走ったのですが、逆に痛い目に遭ってしまいました。

そんなある日、僕と出会ってしまったそうです。

僕といると心が落ち着いたそうです。

特に何か高望みはなく、平凡でも、地味でもいい、落ち着ける「場所」に行きたかったそうです。

それが僕との生活でした。

あと10年若かったら、その状況を長くできたでしょうが、30半ばを過ぎた僕と彼女には、その変わらない状況を維持することは難しくなっていました。

結婚、家、子供・・・

次々と起こる「幸せイベント」は彼女にとっては「落ち着けない日々」だったのです。

 

「ごめん、だけど、たぶん無理」

それは、別れを意味していました。